令和2年2月10日、警察から「犯罪統計資料」が発表されました。犯罪統計資料の「令和元年(2019年)の刑法犯認知件数(※)の確定値」によると、刑法犯の全体の認知件数は年々減少しており、そのうちの窃盗犯も同様で令和元年は53万2565件だったとのことです(4年前の平成27年(2015年)は80万7560件)。
もっとも、窃盗犯の認知件数は刑法犯全体の認知件数(令和元年度は74万8559件)の約71%を占めており、窃盗犯は依然として私たちの生活にとって身近な犯罪だということができます。
※刑法犯認知件数
刑法犯とは窃盗罪(刑法235条)をはじめ、放火の罪(刑法108条など)、殺人罪(刑法199条)、強盗罪(236条)など刑法に規定されている犯罪のことをいいます。認知件数とは警察がある罪の事件を犯罪として認めた件数で、検挙件数(実際に被疑者を特定し立件した件数)とは異なります。
窃盗罪とは
窃盗罪は刑法235条に規定されています。
刑法235条
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
「他人の」とは、他人(被害者)が事実上支配していることをいいます。「支配」していることで足りますから、他人が現実に財物を手にしていること、どこに何があるか逐一把握(認識)している必要はありません。また「事実上」の支配で足りますから、他人が所有権を有していることは必要ありません。ということは、たとえば本来の自転車の所有者が、自転車を盗んだ犯人から自転車を取り返す行為も窃盗罪に当たる可能性があります(法は自力救済を認めていません)。
財物
「財物」はお金や商品などのように有体物であることが基本ですが、近年は無体物(電気など)でも管理・支配可能なものであれば財物に当たると考えられています。また、金銭的価値のあるものはもちろん、恋人からもらったラブレターなどのように、他人から見れば価値はないようにみえるものでもその人にとって価値のあるものは財物に含まれます。
窃取
「窃取」とは、他人の財物を自己あるいは第三者の占有下におくことをいいます。たとえば、スーパーで商品を手提げ袋に入れて万引きしたという事案では、手提げ袋に入れた行為が窃盗です(保安員などがスーパーから出た段階で犯人を呼び止めているのは、犯人に「お金を払うつもりだった」などという弁解をさせないために過ぎません)。窃盗までに至らない行為(手提げ袋に入れようとした段階で保安員に見つかったなど)が窃盗の未遂となります。
なお、警察は窃盗の手口として「侵入盗(他人の家や建物に立ち入っての窃盗)」、「乗り物盗(自動車、自転車などの窃盗)」、「非侵入盗」に大別しており、さらに細かく手口を分類しています。なお、冒頭でご紹介した犯罪統計資料によりますと、認知件数の多かった窃盗の手口を順にご紹介すると「万引き9万3812件」、「車上ねらい3万7425件」、「置引き2万2116件」となります。いずれも非侵入盗に分類されます。
窃盗罪で逮捕、その後の流れ
窃盗罪で逮捕された後は概ね以下の流れとなります。
①逮捕
↓
②警察の留置場に収容
↓
③送致
↓
④勾留
↓
⑤捜査(取調べなど)
↓
⑥刑事処分(起訴、不起訴)
↓
⑦(起訴された場合)刑事裁判
↓
⑧判決
①から④までは概ね3日間です。④勾留後はじめは10日、その後やむを得ない事由がある場合は最大10日間延長されます。つまり。逮捕から勾留満期まで最大で約23日間を要することになります。もっとも、①から④、あるいは④から⑥までに身柄拘束の理由、必要性がないとして釈放されることもあります。
また、⑥で正式起訴された以降は保釈請求し、裁判所(第1回公判前までは裁判官)から許可が出て保釈保証金を納付すれば保釈(釈放)されます。⑦刑事裁判の期間は事件の難易度によって異なります。刑事裁判を経て⑧判決に至ります。
身柄解放・不起訴処分を求めるには、刑を軽くするには
全てにおいて弁護士による刑事弁護が必要不可欠といっても過言ではありません。
刑事事件では弁護士には私選弁護士と国選弁護士がいます。私選弁護士と国選弁護士の違いは、弁護士費用の負担の有無のほかにその活動を開始できる時期が決定的に異なります。
私選弁護士であれば選任があればいつからでも活動可能ですが、国選弁護士は④勾留後からしか活動できません。したがって、①から④までの身柄開放、つまり早期身柄開放を望まれる場合は私選弁護士に刑事弁護を依頼した方がよいでしょう。
また、窃盗事件において、不起訴を獲得したり量刑を軽くするには被害者と示談し、その結果を検察官や裁判官に示すことが必要です。身柄事件の場合は⑥刑事処分まではある意味時間との勝負でもありますから、はやめはやめに示談交渉をはじめた方がよりよい結果につながりやすくなります。